黒子と火神






黒子の腕には、たくさんの花を抱えていた。
どんな花かと言われたら、秋に咲く菊ばかりだった。濃い黄色い菊は黒子の腕を埋め尽くすほどにたくさん束ねていた。

どこから取ってきたのかと聞けば、彼はこう言った。
適当に取ってきました。と。

まさか、他人様の花を盗んだんじゃないだろうなとヒヤヒヤしていたら、違いますと即答される。
近所の若葉さんの庭から取ってきたんです。じゃあ、盗んだと同じじゃないか。



「まあ、そうですね」



黒子の淡々としたとんでも発言に、火神はますます呆れるばかり。
本当に大丈夫なのか?
黒子が若葉さんは優しいおばあちゃんですから、きっと許してくれますよ。もしかしたら、数が減っていることに気付かないかもしれないとぬかしてきやがった。そんなの言い訳しか聞こえない。

火神は軽く黒子の後ろを一蹴りすると、てっと声をあげる。その反動で2つ3つの菊と花びらを落とした。
まあ、それくらいで黒子の腕を埋め尽くした菊は減らなかった。



歩くたびにはらり、はらりと菊の花びらが落ちて、ぼと、ぼとと菊そのまま丸ごとが落ちてきたり、その繰り返しを火神はずっと見てきた。だが、それを見るのが飽きたのか、黒子が落とした菊を一つ拾った。

そして、菊の花びらをちぎって、すーき、きらーいと言い始める。花占いをし始めた火神に興味を沸いたのか、黒子は振り返る。

「何を占っているんですか?」
「んー、好きな人?」
「そうですか」

会話のキャッチボールにとんでも発言を含まれているのに、黒子は何にもなかった、大したことがない顔で済ませる。一方、火神はまだ、きらい、すき、きらい、と花占いの続きを再開する。菊には花びらが多すぎだから、彼はきっと途中で言い間違えるだろう。
すき、きらい、すき、すき、すき、きらい、あ、間違えた。
案の定、すぐに間違えた火神はむしられた菊を投げ捨て、すぐに真新しい菊を拾い、花占いし始める。すき、きらい、すき、きらい、すき、きらい、…………。


黒子が持っていた菊が半分以下に減ってしまい、腕がもう見えていた。黒子は火神の方に振り返り、花占いの結果はどうでしたか?と答える同時に火神はやっと花占いが終わったとこだった。

「好き……あー、好きだったよ。黒子」
「そう、それは合っていますよ」
「………そーかよ」

火神は照れるように、頭をポリポリ掻く。それから、黒子の頭をくしゃと撫でた。
何も言わなくてもいい。分かっているから、何も言うな。それが火神のサインだと黒子は受け取った。
はらり、ぼと、はらり、ぼと。
黒子と火神が歩いてきた道に菊だらけで、火神はあー、若葉さんが追いかけてきたら怖いんだけどと眺める。

すると、黒子が火神の学ランの端を掴む。黒子の行動にすぐ理解したのか、ああとたった二文字だけで答え、少しかがむ。その顔は嫌そうなのに、どこか期待感が漂わせていた。
何も言わなくても分かってくれる火神に黒子は嬉しくなったのか、少し微笑みを見せる。そして、最後になってしまった赤い菊を持ったまま、屈んだ火神のでこにキスした。



∴ロマンチスト





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